北京留学で感じた「国際言語」としての中国語の面白さ

「耳」をつくる

意気揚々とスタートした北京留学でしたが、いきなり壁にぶつかりました。授業で先生が話す中国語が意味を成す音として頭に入ってこない。渡航前に一応集中的にレッスンを受けていただけに余計にショック。特に焦りを感じたのはリスニングのクラス。虚しさを感じるほどにわかりませんでした。

でも、同じ焦りを感じていたのは同じクラス内にいた数人の日本人学生も同様だったようで、リスニングクラスの後にぶっちゃけトークをして妙な連帯感が生まれたのは今になってはいい思い出です。

この焦りはとても重要なスパイスとなり、とにかく「耳」をつくろう、と意識し、徒歩で15分ほどある住居から大学までの間は中国語のカセットテープを聴きながらシャドーイングをするのが日課になりました。(当時は中国語音源の教材はカセットが主流だったので結構かさばりました。)

授業中は、耳に入ってくる意味化されていない音を拼音(ピンイン)※で書き取ることに集中し、電子辞書で拼音>漢字>意味のサイクルを回すようにしました。中国語をこれから学ばれる方へのアドバイスがあるとすれば、初期段階はとにかく音に集中し、漢字は後付けくらいの方がよいです。日本人にとって漢字は身近なので視覚に頼ってしまうと、音感が研ぎ澄まされません。音の上に漢字を乗せていく感覚の方が「耳」が作られると思います。漢字の分からない欧米人向けに拼音のみで書かれた教科書を使うのも手です。

※拼音(ピンイン):漢字の読み方をアルファベットで表記したもの。読みに加えてトーンを表す声調が4種類あり、拼音の後ろに付け加えることが多い。你好=Ni3 Hao3 

授業の進め方で印象に残っているのは、短文暗唱です。その日に扱う短文の発音練習後や本文の解説後、ランダムに指名されその短文を見ずに言い切る、という練習が何度か行われました。みんなの前で指名され”言えないと恥ずかしい”みたいな意識が働き、クラス内にいい緊張感が生まれていたように思います。いつ指名されるか分からないので、常にワーキングメモリが刺激され、新しい短文が出てくると文単位でインプットする癖が身につきました。

多様性のあるクラスメートと中国語圏への意識

当時のクラスメートは30名ほどで、国籍での多数派は日本人でしたが、他にもアメリカ、カザフスタン、タイ、オランダ、インドネシア、韓国、イギリス、マレーシア、と多様性にあふれ、中国語を共通言語として進められる国際交流の面白さを体感できたいい時間でした。彼らが中国語を学ぶ理由は、華僑だったり、中国とのビジネスを見越していたり、中国人女性に恋をしていたり、とさまざまでした。この中国語x多国籍という環境を通じて、英語が英国のみで話される言語ではないように、中国語ももう少し広い文化圏で捉えた方が良いという考えが私の中で生まれました。

当時のメンバーの何人かとは卒業後数年経って再会したり、Facebookで連絡を取ったりしたのですが、クラスリーダー的存在だったカザフスタン人の彼は自国でアメリカ系のエネルギー会社幹部に、2人いたアメリカ人のうち一人はシンガポールで社内弁護士に、もう一人は関西の大学で英語教師になっていたり(オフィスの本棚には中国語の本が数冊置いてありました。)とそれぞれの道を歩んでいました。

この留学で得たのは語学力はもちろん、英語圏と中国語圏の国際性の違いを意識するきっかけでした。前者は積み上げられてきた歴史を軸に、各地の文化と融合しながら土着的かつオープンソース的に広がった言語圏であり、後者は特定文化圏の影響が強くそのOS(オペレーション・システム)を軸に作られ、文化独立性を保ったままクロスボーダーに広がった言語圏。中国語圏における国際性はある種、この特定文化圏のOSで回る世界に対する好奇心・チャンス・オリジンを持つ人々のつながりであり、中国語はその圏内で共通認識を持ち、探索を加速させるツールとしての「国際言語」である、という見方をするようになりました。

次は、留学後に私自身が歩んできた中国語文化圏を舞台にした探索ストーリーのダイジェスト版をお届けし、これからやっていくことについて掘り下げてみます。